人類の進化と私達、家族:私達は人類 » 人類の特徴(4) – 育児(ヒトのお母さんと赤ちゃん)

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育児(ヒトのお母さんと赤ちゃん)

子育ての基本

子育ての目標は?
母子健康手帳に書かれている標準に沿って身長や体重が大きくなること、月齢・年齢別の健康診査をクリヤーすることと思われているのではないでしょうか?あるいは、良い学校に合格させるということでしょうか? 子育ての基本は、人類が進化の歴史の中で獲得してきた“人類の特徴”を子どもに伝えること(素質づくり)ではないかと思えてなりません。故瀬川昌也医師※2-2-12は、育児の基本として睡眠覚醒リズム、ハイハイを含めた直立二足歩行と脳神経系の正しい発達を強調されていました。いずれも人類の特徴の代表格です。

脳神経系は未完成のまま生まれる

脳(脳神経系)は未完成のまま生まれます。部品(神経細胞)は揃っているのですが神経細胞間をつなぐ神経回路、ネットワークが一部を除き未完成です。本来、正しく構築し、鍛え、強くかつ柔軟にしなければなりません。脳神経系は知情意が発露する“装置”そのものです。正しく構築し鍛え(発達させ)、健全な脳神経系を得ることは素質づくりそのものといって過言ではないと思われます。健全な脳神経系は健全な知情意と体の基礎です。

お金がかからない健全な脳神経系の獲得

子どもが健全な脳神経系を得ることを子育ての目標とすることは如何でしょうか?ただし、脳神経系の発達と知識を詰め込むこととは別物です。知識を受け入れる器(脳神経系)ができていない子どもに、知識を詰め込もうとするのは無理がありそうです。前出の故瀬川昌也は次のように語っています「小学低学年までは勉強は要らない、(野原で)走りまわること、睡眠覚醒リズムを太陽の明暗リズムに合わせること、五感を働かすこと、これが一番大事」。確かにお金がかからない方法ですし、なにより人類の祖先の時代から採ってきた戦略です。

子どもをとりまく人工環境に注意

また、人類は自然環境のなかで進化してきたのですが、現代の私達は人工環境に晒されています。例えば大人の夜型生活リズムなどは私達人類の祖先が出会ったことがない環境刺激です。人工環境は子どもの発達にとって病気や障害を引き起こす要因になる可能性があることから注意すべきものであるようです。

子どもにとって大事な自然環境

一方で、家族や隣人が自然環境であると考えることはあまりありませんが、実は子どもの発達にとって最も重要な自然環境の一つであり、このほかにも見過ごしがちな自然環境と呼べるものがたくさんあります。
〇共食
〇共寝、共起床・朝ごはん
〇顔をみつめて会話(話し掛け)
〇ハイハイ、直立二足歩行の援助
〇睡眠覚醒リズムや直立二足歩行の状況把握と過不足の調整
これらを家族間相互作用の下に行うことが、人類の祖先から続く子育ではないでしょうか?

ヒトのお母さんと赤ちゃんに関する人類の特徴

img009主なものは次の通りです。これらの多くは、人類の祖先が熱帯雨林樹上から猛獣が徘徊している地上(サバンナ)に進出してから獲得した特徴です。

これらのことは、是非若い父親の方々にも知っていただきたいと思います。

特徴:ヒトのお母さんについて

〇ヒトは多産系 ※2-2-5
〇脳を小さくして産む ※2-2-13
〇他人に赤ちゃんを渡して平気 ※2-2-6

特徴:ヒトの赤ちゃんについて

〇ゆっくり成長 ※2-2-14
〇赤ちゃんの脳は摂取エネルギーの60%を消費 ※2-2-13
〇未完成脳のまま生まれ ※2-2-15、思春期終了頃までに完成

特徴:育児について

〇男も育児に参加 ※2-2-16
〇祖父母も育児に参加(祖母仮説:女性が閉経期後長生きするのは、育児をするため閉経を早くした ※2-2-17
〇他の大人も参加

注:
2—2-12 瀬川昌也医師 前・瀬川小児神経学クリニック院長。日本の小児神経学のパイオニアの一人。瀬川病を発見。国際学会・国内学会での発表多数。
2-2-13 山極寿一「人類進化論」裳華房 2010年3月 66~69
2-2-14 「霊長類は同じ体重の哺乳類と比べて遅く繁殖を開始する」  山極寿一「人類進化論」裳華房 2010年3月 60~62,67
2-2-15 瀬川昌也 「子どもの脳はいかにして人間の脳となるか」 遺伝 2044年5月号(58巻2号) 58
2-2-16 山極寿一「家族進化論」東京大学出版会 2012年6月 193~199
2-2-17 山極寿一「人類進化論」裳華房 2010年3月 78~79